回目錄 上一章 下一章 往上

一三 產業組合

現代社會は資本主義經濟社會と呼ばれる大きな事業を營むには、相當の資本を必要とする事は勿論である。今經濟發達の跡を尋ねて見ると、歐洲に於ては十八世紀の中葉頃より一般科學、殊に工藝科學の研究が著しく進步し、各種の器具機械が發明せられ其の結果、手工業より機械工業にと進展したのである。即ち從來多數の人力を以て為されたものが大なる機械力に依り、僅かの人力を以て為し得らるゝ事となり、しかも過去に於ては想像だにも許されなかつた種々の文明品が次から次へと生產される事となつたのである。これが所謂產業革命である。

斯くして人々は新たに發明せられた器具機械の力に依つて大なる便益を受け得るに至つたのではあるが、光あれば蔭あるが如く其の反面に於ては、產業規模の擴大に伴つて巨額の資本を有しなければ事業の遂行が困難となるため、社會の大多數を占むる中小商工業者、農民等は活動力、勞働力、を削減せられ、その生活の進展を阻害せられ、勢ひ漸次貧富の懸隔が著しくなり、社會全般の福利攝iの見地に於ては寧ろ憂ふべき事象を呈して來た。此等中小商工業者、農民等をしてその團結の力により、相互扶助の方法に依つて真に幸福なる生活を得させるために生れ出でたのが茲に云ふ所の產業組合である。即ち資力の乏しき者も十人集り百人協力する時は相當の資金を得るであらうし、更に五百人千人の人々が互に結び合ふ場合に於ては、優に一廉の資本家と相伍し得る資力を有し、相互の利益を攝iする為に必要なる事業を營むに足るであらう。斯くの如く多數の人々が協力して產業組合を組織する事に依つて、一面資本主義による障害を除去し、組合員の生活を向上せしめ、惹ては社會の健全なる發達を期し得る事となつたのである。

產業組合の實現せんとする理想は頗る深遠であるが、要するに中小產者に對して獨立自助の精神を涵養し、相互扶持、鄰人相愛、協同一致の觀念を鞏固にし、物質と精神、經濟と道コとの調和を圖り、その產業及び生活狀態を改良し、延て國家竝に社會の健全なる發達を企圖せんとするものと云ひ得る。產業組合は敘上の理想を目標とし法律組合定款等の規範の下に、經濟的行為は勿論社會事業其他廣汎なる經營をも為し得るものである。產業組合法第一條第一項に於て次の如く規定してゐる。

本法ニ於テ產業組合トハ組合員ノ產業又ハ其ノ經濟ノ發達ヲ企圖スル為メ左ノ目的ヲ以テ設立スル社團法人ヲ謂フ

一 組合員ニ對シ產業ニ必要ナル資金ヲ貸付シ及貯金ノ便宜ヲ得セシムルコト(信用事業)

二 組合員ノ生產シタル物ニ加工シ又ハ加工セズシテ之ヲ賣却スルコト(販賣事業)

三 產業又ハ經濟ニ必要ナル物ヲ買入レ之ニ加工シ若ハ加工セズシテ又ハ之ヲ生產シテ組合員ニ賣却スルコト(購買事業)

四 組合員ヲシテ產業又ハ經濟ニ必要ナル設備ヲ利用セシムルコト(利用事業)

更に第一條に依れば組合員に對し其の經濟の發達に必要なる資金を貸付し、又は組合員と同一の家にある者、組合區域內の公共團體、營利を目的とせざる法人若くば團體の貯金を取扱ふ事を得るのである。

茲に留意すべきは利用事業に於て物的設備人的設備又は經濟的設備のみならず、社會的施設をも為し得る事である。即ち病院・學校其他各般の設備をなして組合員の經濟的發展に資するのみならず、コ育、智育、體育等の諸方面に亘り組合員の資質を向上せしめ、真の福利攝iを圖り得るのである。又信用・販賣・購買等の諸事業に於ても、物的よりも人的即ち組合員の人格に重きを置き、之等の事業を經營し、經濟的方面と道コ方面とより組合員の進展向上を期するものであり、此の點他の一般金融機關其の他の營利會社等と大いに趣を異にするものである。

右の如く產業組合は各般の事業を經營し得るのであるが、其の經營形態に依り左の如く類別し得るのである。

一 單營組合

信用・販賣購買及利用の各事業中其の一を經營するもの。

二 兼營組合

信用・販賣・購買・利用の四種中二種以上の事業を兼營するもの。

右の內農村に於ける產業組合は四種經營を以て最も理想とする。即ち單に信用事業のみにて真に農村の進展を期し得ないのであつて、信用事業を中心とし、活動の原動力とし之に加ふるに販賣・購買・利用の各事業を兼營し、更に農業倉庫等をも經營して初めて農村產業組合の使命を達成し得るのである。

又他方組合員に於ては、信用部に於て資金の融通を受け、餘金を蓄積し、更に進んで共同販賣、共同購買、共同利用、農業倉庫の利用等總ゆる方面より組合を活用し、生產費生計費の輕減收入の搗蛯圖り、一員は全員のために、全員は一員のためにとの信念に立腳し自力更生農村振興の實を舉げなければならぬ。

海山郡下に於ける產業組合は現在七組合で何れも四種事業を兼營し、殊に樹林・板橋。三峽・中和の四組合は既に農業倉庫を兼營して組合員の福利攝i農村振興に努めてゐる。現存の組合は次の如くである。

板橋信用利用購買販賣組合 中和信用利用購買販賣組合

樹林信用利用購買販賣組合 鶯歌信用利用購買販賣組合

三峽信用利用購買販賣組合 柑園信用利用購買販賣組合

土城信用利用購買販賣組合

昭和九年度八月末に於ける事業成績概況は、貸付總額一〇六七四七五圓 貯金總額一三〇五〇二四圓 販賣總額一八六三八九圓 購買總額一一八三九三圓 利用料總額二九二二圓である。

右の如く郡下各組合に於ては、貸付貯金共に百萬圓を突破し、金融上重要なる役割を占め、販賣・購買・利用等に於て相當の成績を示してゐるが、其の經營內容に於て或は組合精神の普及徹底に於て一層の努力を要するものであり、吾等は將來產業組合理想鄉の建設に向つて邁進しなければならぬ。

郡下に於ては右の外浮州農事實行組合の外十四の農事實行組合があり、區域內部落の發展向上に努め、或は海山郡產業組合青年聯盟、海山郡產業組合共融會等を組織し、農村青年に對して產業組合智識の涵養、組合主義精神の普及を圖り、或は郡下產業組合の擴大強化に力を盡してゐる。

飜つて今日の我が國情を觀るに、國家的にも社會的にも重大なる時局に直面してゐる。此の秋に當り我等青年は產業組合の主義精神を理解體得し、更に組合精神の普及徹底を圖り、進んでは組合の擴充に努め、共存共榮、相互扶助の大精神に立腳して各々其の職分に向つて努力を拂ひ、非常時日本の打開進展に貢献しなければならぬ。

 

 

 

回目錄 上一章 下一章 往上