一四 樹林酒工場
酒類の專賣は專賣收入の增加、品質の向上、種類及び價格の統一需要者の保健衛生を目的とするもので、大正十一年四月臺灣に酒類專賣令を公布せられてより十有餘年、着々と其の目的達成につとめてゐる。今本島內の酒類消費量を見るに二七六八一九竡、其の價格一三五五三〇〇〇圓に達し、これを酒類別に示せば次の通りである。
 |
右の外昭和八年七月より、麥酒の專賣令も實施せられてゐる。
樹林酒工場は元民營の紅酒製造工場を、大正十一年四月臺灣酒類專賣令の實施と共に、臺灣總督府專賣局の酒類製造工場となつたもので、土地の擴張、建物の改廢新築、最新式器具機械の設備をなして現在に至つたもので、米酒、紅酒、紅釉の製造を行つて居る。
工場の從業員は二百數十名に及んで居るが、每年九月より翌年三月まで、紅酒、紅釉の製造期には、更に五十名內外の職工を增員して居る。
工場及紅釉製造量は次の通りである。
 |
米酒の製造はアミロ法と稱する、最新式の方法によつて、製造能率をあげてゐる。
紅酒の製造は米酒、糯米、紅釉を原料とする再製酒で、二年乃至三年貯藏したる後に、老紅酒として市場に販賣されてゐる。
紅釉は大正十三年以來製造を開始し、原料及び製法に研究工夫を重ねて、良好の成績を舉げてゐるが、大正十五年以降は當工場の製品を全島の紅酒工場に配給してゐる。
以上の製法を簡單に圖解すれば次の通りである。
アミロ法米酒製造工程圖
紅酒製造工程圖
紅釉製造工程圖
終りに酒の歷史について述べてみやう。酒は遠く有史以前に存在して居た事は確實で、人間が造つたばかりでなく、猿が酒（アシ酒）を造つて飲んだ事も記事に見えてゐる。支那の禹の時代我が日本の神代、西洋に於てはエジプトの歷史等、いづれも五千年の昔から人間が飲んで居たのである。
酒の利害については種々に說かれて居るが、酒そのものは人體に有害なものではなく、一種の食料品である。只酒はカロリーは高いが蛋白、脂肪、ビタミン等を含有して居ないので、偏頗な營養品であると云はなければならぬ。酒については適度を越す事に附隨する種々の罪惡が酒そのものゝ成分より恐ろしいものである。