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第十六章 名勝舊蹟 第一節 鶯歌石
鶯歌驛の北方十町の山綠蔭中に一大巖石突出し、其の形狀宛然鷹の如し。今は鶯歌石と稱するも、元来は鷹哥石と云へり。鶯と鷹とは同音なれば、遂に鷹哥を鶯哥に書せり。哥は助語にして、別に意あるに非ず。領臺後更に哥を變じて歌に作れり。 鶯哥山在三角湧與鳶山對峙相傳吐霧成瘴偽鄭進軍迷路 斷其頸 ○詩「鷹哥石」 怪石崢嶸狀最奇。 含煙吐霧記當時。 如何不向雲霄去。 歛翼山頭欲待誰。 第二節 尖山 尖山は本庄域の西端に位せる獨立山にして、高さ海拔一千二百八十尺に達し形は宛然扇を倒に懸けたるが如し。頂上に立てば山麓に近く部落あり、叢篁あり、學校あり、池沼あり、西南に遠く、大溪街の青陵と大嵙崁溪の銀流とを一眸に納め、又東には、碧空の下、宛然盤景の如き郡下の全景展開し、其の眺望甚だ佳良なり。 尚本山に就いては、鄭成功麾下の軍隊此の附近に久しく屯營せる際、軍兵の草鞋の土積りて山となりたりとの傳說あり。土は黑褐色を呈し、水銀を含み、中腹には白色の砂を産す。 ○詩「尖山」 陳阿玉 風光遠近入吟眸 快上尖山試俊遊 安得倪黃今再世 一丘一壑畫中收 ○同 尖山絕頂景無邊 四顧風光落眼前 東望獅潭雲繞寺 西探牛窟草連天 南臨崁水銀濤白 北接鶯歌綠樹妍 準擬一瓢重九曰 共尋韻事聳吟肩 第三節 邦彥王遺蹟記念碑 （一）久邇宮殿下奉送迎の實況 特命検閲使陸軍大將久邇宮邦彥王殿下には、昭和三年五月二十九日、當庄大湖南方の臺地に於て行はるる南北對抗演習を御検閲遊ばさるべく、未明の臺北を御出發、雞鳴曉を告ぐる午前五時五十分と云ふに、早くも鶯歌驛に御降車あらせられ、ブラツトホームに御出迎へ申上げし黃純青氏、陳阿玉氏、李海山郡守等に御會釋を給ひて後、御道筋両側に學校生徒、壯丁團、庄民等堵列して恭々しく奉迎申上ぐる中を、大沼御附武官御陪乘、自動車にて一路演習地向はせられる。尖山山麓にて轎に御移乗遊ばされ、田中軍司令官、松木中將、三浦臺北州知事を隨へさせ、六時二十五分、演習御検閲場たる桃園高臺の裾野百三十高地（假想）に御着、永山新竹州知事、細木演習統裁官の奉迎を受けさせ給ひて直ちに天幕內の御席に着かれ、折しも火蓋を らんとする拂曉戰より遡りて夜間演習の狀況を細木統裁官より御聽取の上、鳶山の古戰場を御前に眺めさせられつつ桃園高臺の一角に立たせ給ひ、眼下に展開さるる演習を約一時間に亘りていと御熱心に御検閲遊ばされしが、さしも壯烈を極めたる一大遭遇戰も、初夏早朝の野山に響き渡る休戰喇叭の音も嚴かに、無事終了を告げぬ。 ○尖山公學校へ御成 演習御検閲後 殿下には、各隨員を從へさせ給ひ、密雲を破りし旭光の燦として輝く中を、御休憩所にあてられし尖山公學校に御成りあり、輕き御朝食を御召し遊ばされて後、同公學校長原田萬太郎、鶯歌庄長黃純青、海山郡守李讚生の三氏に謁を給ひ、午前九時より同校校庭に於て行はれし細木統裁官の演習講評を聞こし召され、學校生徒、庄民等多數の熱誠なる御見送りを受けさせられつつ、御歸還の途につかれ、同九時三十五分鶯歌發の特別列車に御搭乘、午前十時八分恙なく御歸北相成り、土山總督、後藤長官の奉迎を受けさせ給ひて、總督官邸なる御泊所に御着遊ばさる。 （二）故久邇宮邦彥王殿下記念碑除幕式 （九月二十九日於海山郡鶯歌庄尖山公學校庭） 畏くも今や皇國の護神として永久に其の英靈を仰ぎ奉る故久邇宮殿下には、昭和三年五月特命検閲使として御渡臺遊ばされ、其のお序を以て各地に御成あり、國母陛下の御父君として夙に御徳を慕ひ奉りし本島民は感激感泣を以て其の尊き御姿を拜するを得たり。 五月二十九日、南北對抗演習決戦の日、殿下には海山郡鶯歌庄尖山の原頭に駕を進められ、を召されて後、校庭に於て演習の講評を御聽取遊ばさる。其の砌 殿下には、尖山公學校長、鶯歌庄長及び海山郡守に對して特に拜謁を許され、又同校附近一帶十餘甲の松林は殊の外御意に叶ひて種々有難き御言葉を賜ひし由洩れ承はる。庄民の光榮、諭ふるにものなく、此の千載一遇の日を記念すべき有意義なる事業を企圖することとなれり。即ち、學校兒童及び一般地方民に 皇室中心の觀念を養成強調せしむべく、學校に記念講堂を、校庭に記念碑を建設することに議を纏め、昭和四年二月地鎮祭を行ひ、次いで瀨戶山郡守、陳庄長、小松庄協議會員、三峽駐在近藤三井合名會社員等、三峽溪の幽谷に自然石を撰び、四月より工を起し、同八月を以て落成を告げたり。之が工費の大半は有志の寄附に俟ち、勞工は青年團及び學校兒童の奉仕に依り、碑文は猪口鳳庵先生、字は總督囑託高井得堂先生の揮毫に成る。 同年八月二十九日、記念講堂の落成式と併せて除幕式を舉げ、片山臺北州知事、臺灣軍高級副官中山中佐、瀬戸山郡守等多數官民参列ありて盛大を極めたり。 ○邦彥王遺蹟
昭和三年五月二十九日味爽檢閱使陸軍大將久邇宮邦彥王親閱南北對抗演習于鶯歌之野既畢臨蒞尖山公學校咸日 王 今上之外父皇室之藩屏我鄉光榮蔑以加茲比者莊民胥謀捐金建碑以記盛垂之後昆 題字 台灣總督 川村竹治書 第四節 沼市郎彥先生之記念碑 明治四十年、當庄尖山公學校第一代の校長に任命せられたる沼市郎彥先生は終始一貫、專心を以て育英事業に盡瘁せられ、世に稀なる教育者なりき。同校に在職すること實に十九星霜、此の間校務勿論、現に尖山公學校の誇とする校有松林及び想思樹林の栽植、庭園の整理等を企て、其の業績甚だ大なり。即ち、同校の卒業生を以て組織せる同窓會は、既に逝きし恩師の功勞を永久に記念すべく、尖山公學校校庭に記念碑の建設を企て、昭和七年 月 日地鎮祭を行ひ、 月起工、同年十二月二十五日を以て竣工せり。工費は同窓會の基金及び保護者會の援助に俟ち、勞力は學校兒童の奉仕に依り、同年十二月二十六日、海山郡守を始め關係者及び來賓多數参列の下に盛大なる除幕式を舉行したり。 ○碑文 沼先生為國家專心研究教育孜々罔厭始終一貫終身無移教育之途實堪為萬世師表也於明治四十年受上命任尖山公學校長在職中盡瘁本校職務教育門下多數經十九星霜屬在世之罕有耳我等茲以銘石以誌不忘本校創立二十五週年同窓會敬立 昭和七年十二月二十五日建之 第五節 聖蹟亭 潭底山麓に一小亭あり、石垣を以て護り、亭上に聖蹟の二字を題す。改隸前を負ひて途上に遺棄せる文書を收拾し、汚染を清めて亭に投じ、燒きて其の灰を海に納む、即ち惜字亭なり。一時儒者の字を尚ぶ習盛なりしも、今や世風頹廢し、人情輕薄に流れ、拾字の慣全く廢するに至れり。 同治十一年壬申（明治五年）簡煉氏百餘\金を募りて建亭し、光緒元年乙亥（明治八年）王作霖氏は同志十八を集めて文炳社を興し、各金若干を捐出して基金と為し、其の利子を以て祭聖の資に充て、例年亭前に祭典を舉行して現在に至る。十八氏の氏名左の如し。 王作霖。王國楨。王希謙。賴耀邦。陳育仁。詹駿聲。陳勃然。李在淇。賴宗寅。廖春生。鄭連三。簡禹三。劉育英。王觀瀾。賴維岩。廖克梧。潘桂芳。吳錦標。 鶯歌庄庄是 大綱 一、自治精神ヲ振作シ庄治ノ向上ヲ期ス 二、教育教化ヲ振興シ社會事業ヲ施設ス 三、産業發達ヲ促進シ地方經濟ヲ充實ス 四、交通機關ヲ整備シ通運ノ圓滑ヲ期ス 五、衛生ノ施設改善ヲ行ヒ健康ヲ增進ス 六、基本財産ヲ造成シ庄財政ヲ安固ニス 實施要項 一、自治精神ヲ振作シ庄治ノ向上ヲ期ス 一、協同自立公共ノ三精神ヲ涵養シ公民的修養ニ努ム 二、庄治振興方針ヲ確立シ民力消長庄勢發展ニ邁進ス 三、協議會員區委員中堅者ト協調シ施設ノ普及ニ努ム 四、納税組合ノ活動ヲ促シ納税義務觀念ノ向上ヲ期ス 五、庄報ヲ刊行シ庄治概況ヲ周知シ愛庄觀念ヲ涵養ス 六、懇談會ヲ開催シ民意ノ聽取自治ノ訓練修養ヲナス 七、功勞者善行者篤行者等ヲ表彰シ民心ノ善導ニ努ム 八、寺廟墳墓ヲ大事ニシ敬神敬祖愛鄉ノ精神ヲ養成ス 九、勸業教化其他各施設ヲ通シ自治觀念ノ養成ニ努ム 二、教育教化ヲ振興シ社會事業ヲ施設ス 一、皇室尊崇忠誠報國ノ國民的志操信念ノ振作ニ努ム 二、教育ハ實業ヲ樂樂愛村人物ヲ養成スルヲ方針トス 三、教育機會均等ヲ圖リ貧困兒童ノ就學障害ヲ除去ス 四、男子 女子教育ノ充實ヲ圖リ就學率ノ向上ヲ期ス 五、學校施設ノ完備ニ勗メ教育機能ノ發揮ヲ充分ニス 六、國語ヲ練磨シ常識ノ修養ニ勗メ國民性格ヲ向上ス 七、醇風良俗ヲ振作更張シ以テ鄉風ノ醇厚浄化ヲ圖ル 八、浮華遊惰ヲ斥ケ勤儉貯蓄力行ノ美風ノ作興ニ努ム 九、教化團體ヲ助成シ地方改良生活改善ヲ遂行セシム 一〇、庄圖書館ノ内容充實ヲ圖リ知徳ヲ研磨修養セシム 一一、男女青年團ノ事業ヲ助成シ中堅青年ヲ輔導誘掖ス 一二、濟生會の内容ヲ充實シ救濟事業ヲ普及徹底セシム 三、産業發達ヲ促進シ地方經濟ヲ充實ス 一、米作ノ改良ヲ行ヒ産米ノ增殖 聲價ノ向上ヲ圖ル 二、土地改良地方增進生産增加ヲ圖リ民力充實ヲ圖ル 三、集團的模範施設トシテ果樹類栽培ヲ適地ニ獎勵ス 四、綠肥栽培ヲ獎勵シ金肥ヲ省キ農業經營ヲ合理化ス 五、改良豚舎堆肥舎建設ヲ獎勵シ自給肥料增施ヲ圖ル 六、樹苗養成苗圃ノ經營ヲナシ民行造林ヲ普及獎勵ス 七、裏作ノ利用獎勵ヲナシ農村ノ生活ヲ潤澤ナラシム 八、民業ノ獎勵及適切ナル副業ヲ考究シ之レヲ獎勵ス 九、茶園經營 ニ製茶法ヲ改良獎勵シ生産量ヲ增大ス 一〇、家畜及家禽ノ改良防疫增殖ヲ圖リ生産量ヲ培加ス 一一、小作慣行ヲ改善シ業佃協調農村ノ和平振興ヲ期ス 一二、共同施設運用ヲ慣用セシメ自治協同ノ基礎ヲ固ム 一三、講習講話實演ヲ為シ農事改良指導 技術ヲ傳習ス 一四、先進地ノ農事視察ヲナシ見聞ヲ廣メ知識ヲ啟發ス 一五、各種ノ農事團體ヲ指導助成シ産業改良振興ヲ期ス 四、交通機關ヲ整備シ通運ノ圓滑ヲ期ス 一、樹林鶯歌間幹線道路ニ接續スル重要支線ヲ開鑿ス 二、各部落主要連絡道路ヲ擴張改修シ車馬通行ヲ便ス 三、道路管理維持方法ヲ定メ道路愛護ノ精神ヲ涵養ス 四、通信機關完備ヲ期シ通信ノ敏速取引ノ利便ヲ圖ル 五、衛生ノ施設改善ヲ行ヒ健康ヲ增進ス 一、上水下水便所ヲ改善普及シ傳染病地方病ヲ防遏ス 二、寄生蟲トラホームノ撲滅ヲ圖リ保健衛生ヲ向上ス 三、公設產婆ヲ設置シ產婦及產兒ノ衛生ヲ向上セシム 四、傳染病隔離病舎ヲ維持シ諸病毒ノ漫延防止ニ努ム 五、住宅ヲ改善シ健康增進 ニ日常生活ノ向上ヲ期ス 六、運動ヲ獎勵シ體力增進 ニ精神ノ暢達明快ヲ期ス 七、醫治機關ノ完備ヲ期シ救濟施療施設ノ充實ニ努ム 六、基本財産ヲ造成シ庄財政ヲ安固ニス 一、現金ヲ蓄積シ之が增大ヲ圖リ財政ヲ潤澤豐富ニス
二、基本財産地ノ增大ヲ圖リ之ガ整理 ニ施設ヲナス たどる歷史はいと古し 故の教かしこみつ 若き使命もゆるなる 是ぞ我等の鶯歌庄
鐵路は續く南北 田島のみのり豐にて
樹林紅酒の名も高し 是ぞ我等の鶯歌庄 かがひにむつび助けつつ 日々の務にいそしみて 庄の榮を祈るなり 是ぞ我等の鶯歌庄
生れてここに 十餘年 日々に育ちて 進み行く
我等の會の たのしさよ 男女の道を たがへじと 良風美俗に あこがるる
我等の會の 正しさよ 國につくさん 誠心の 誓もかたき つどひなる |