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一六 產兒衛生

「強く生み、強く育てよ。」とパスターの標語にある通り、子供を大切にする事は次代の國民をつくる上に、極めて重大であります。元來臺灣は出產率も高いが、死亡率が非常に高い、そこには色々の原因がありませうが、主として本島人の產兒に對する衛生思想の缺げて居る事にあると思ひます。

丈夫な子供は、出生後の育て方の良否によるばかりでなく、姙娠77 の初期から分娩までに周到な注意をするか否かによる事も多いのであります。多くの人々は妊娠中の養生をあまりに輕視する風がありますが、此の時期の攝生は子供の健康不健康に最も大きい影響をもつて居ます。隨つて妊娠中には尠くとも產婆か醫師の診斷を受けて、色々と相談をする事が必要でありますが、本島婦人には一般に之を嫌ふ傾向のあるのは、よくない事と思ひます。

殊に分娩について特に用心が肝要で、やゝもすると生命に危險な場合さへありますから、ぜひとも產婆や醫師に頼む事が必要であります。ところが本島人はこの方面さへ殆んど無頓着で、單に經驗があるといふだけの婆さんにョんで、藁の上に產ませるなど危驗至極と思ひます。

分娩について大切な事は消毒でありますが、產婆にもョまず土間に藁を敷して產ませ、目や口の消毒や沐浴もさせないで簡單に片づけるため、不潔な細菌が母體に浸入して產褥熱78を起し、遂に取り返しのつかぬ事になる事は度々耳にするところであります。又初生兒の臍帶處置が惡い為に、病原菌が浸入して破傷風79 を起し、一週間そこそこ死亡する例もあり、種々の危險を伴ふものでありますから、產婦人の最も注意を要するところであります。然し分娩は病氣と異なり、生理的に自然に來るものでありますから、產婆や醫師の診斷を受け、其の指圖を受けさへすれば恐るゝ事はありません。

分娩がすめば大體一安心でありますが、その後の養育80 についても細心の注意が肝要であります。

最近は姙婦も漸く理解して、產婆を利用する者が多くなりつゝありますが、まだ〱獎勵の必要がある樣に思はれます。海山郡下では產兒衛生については特に意を用ひ板橋街を除く各庄では公設產婆を置いて、姙婦の取扱竝產兒衛生の指導に當らせて居ますが、其の利用者數は別表の通りで、將來は一層利用者を揩オ、一人でも多く立派な次代の國民を育てあげ、明るい日本、強い日本を建設して行きたいものと思ひます。

公設產婆利用狀況(昭和八年度)

白がねも黃金も玉も何かせん

まされる寶子にしかめやも(古歌)


77 姙婦攝生法

一、適度の運動

二、精神の安靜

三、營養の攝取

四、身體の清潔

五、產婆の指導

78 產褥熱

母體の傷口に病菌が侵入すると發熱し惡性のものは腹膜炎を併發し死に至ることあり

79 破傷風

臍帶の傷口より破傷菌が侵入すると痙攣を起し哺乳出來ず死亡す

80 初生兒の取扱

一、規則正しき授乳

二、每日又は隔日の沐浴

三、厚着防止

 

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